消費者に求められるバランス感覚――買い叩くだけでなく

無料サービス、それぞれの事情

申し込みの段階では、どのサイトが人気サイトになるのかサーバ業者にはわかりません。突然、ブレイクすることもある。しかし業者は、最初の段階でサーバの初期設定をしなければならないのです。何百台もサーバを動かしていれば、動的に負荷を振り分け、不人気サイトはひとつのサーバに1000以上も詰め込んで、人気サイトには最新のサーバ1台を専有させるといった芸当もできましょう。しかしふつうの業者には不可能です。だから機械的にサーバ1台に規定数の利用者を詰め込みます。
旧 tripod 国内サービスは進んだシステムを組んでいたようで、サーバの当たり外れという話をあまり聞きませんでした。その点、一昔前の geocities は悪評がずいぶんあったものです。人気サイトと一緒のサーバになったら、ダイヤルアップ環境では FTP さえ途切れがちになるという話も聞きました。
広告収入できちんと収益が出ているサービスの場合、人気があればあっただけ広告も出稿されるのだから、人気サイトはどんどん優遇すればよさそうなものです。しかしシステムの初期投資費用が、なかなかそれを許さなかったのだと思います。ホスティングサービスはとっくに過当競争になっていて、庶民向けのサービスは一部の例外を除いてみんな自転車操業だそうです。だから、広告バリバリのサービスであっても、転送量に厳しい制限がある場合もあります。
一方、忍者ツールズは広告だけで食っていけそうなサービスではありません。これはあくまで予想ですが、はてなと同様、システム開発などが主な収入源で、忍者の無料サービスは技術力のショーケースなのではないかと思います。大負荷に耐えられます、というのも売りにはなるでしょうが、サイトの転送量なんてのは物理的な手当てが第一なわけです。その点、多くのユーザとデータを捌く技術は、システム開発屋として強力な武器となるところ。
だから忍者ツールズは、多くのユーザを確保しつつ、転送量は低く抑えたい。無料で高機能なら人を集めるには十分だから、転送量という金食い虫を我慢してまで「九十九式」という広告塔を必要としなかった、ということではないか。
FC2 も広告のおとなしいサービスですが、これもちょっと面白い。infoseek が楽天の広告ばかり出しているのはあまりにもわかりやすいのですが、FC2 も FC2 自身の広告ばかり出しています。ホームページシステム(FC2 型の全自動無料レンタルサーバシステム)と有料レンタルサーバ、そしてシステム開発の客引きのために FC2 は無料でサーバを貸し出しているのです。ちなみに FC2 も、転送量が大きいとアカウントが停止されます。
広告なしで無料のところがいい! しかも転送量も無制限がいい! だなんてないものねだりをしても仕方ないのです。ほとんどの無料ホスティングサービスは慈善事業じゃないのですから。
サービス提供業者がどこで儲けようとしているか、ということを、利用者も理解すべきだと思います。無料でも大転送量に耐えるサービス(現在なら isweb が代表格)と、忍者ツールズとでは、広告のつけ方だけ見ても明らかな違いがあります。なぜそんなおとなしい広告でやっていけるのか、あるいは広告なし(一部ブログサービス)でもいいのか、ということを考えたなら、消費者自身がきちんと運営するサイトの規模と利用サービスの釣り合いを判断できるようになるはずです。

有料サービス雑感

安価な有料レンタルサービスはどうか。有料サービス提供者のつらいところは、不人気サイトからも一定の収入を見込める反面、人気サイトからの追加収入もないことです。金食い虫の人気サイトには、応分の料金を払ってほしいのが本当のところでしょう。安価なロリポップXREA で一部の人気サイトが生かされているのは、広告塔効果とバーターで我慢できるから。単体では赤字でしょう。ユーザ数が頭打ちになり、既存ユーザに人気サイト管理者が増えてきたら、蜜月関係は終ります。
企業向けを主としたホスティングサービスの多くは、個人向けで謳い文句が同等のサービスと比較して、料金の 0 がひとつ多くなっています。at+link とか人気あるんですけれども、ロリポップと契約するのさえ躊躇する素人が料金表を見たら、びっくりしますよ。しかもごくふつうに FTP でファイルをアップロードしてブラウザから閲覧するという使い方しかしない場合、平常時の使用感はロリポップと同じです。しかし決して、業者がぼろ儲けしているというわけでもないのです。
値段を買い叩くばかりでは、いいときはいいけれど、という業者しか生き残れません。「いいとき」に一番安い値段をつけられるのは、「いざというとき」の備えのない業者です。正当な報酬を見極め適切な金額を支払う消費者の賢さなしに、個人向けホスティングサービス市場は脆弱な体質を克服できません。個人向け市場に信頼できる業者が少ないとすれば、一番の責任は消費者にあると私は思います。